FASTFOOD
 以前は来日した外国人のFASTFOOD体験で立食そばに連れていったものだが今は回転寿司がいい、お世辞ぬきに感動してくれる。
 アメリカではフレンチトーストと薄いコーヒー、フランスのカフェでクロワッサンにカフェオレ、トルコのチャイハネではチューリップ型のコップに紅茶と角砂糖2つ、豆のスープに固いパンをひたして食べる。モロッコではお茶にミントの葉をたっぷり入れる、インドではシナモン風味でミルクたっぷりのチャイだ。菩提樹の木陰にコンロを置いてすすけたヤカンから注ぐ、時には燃料が牛の糞だったりする。カーストの厳しい国だから最高位のブラフマンは二の腕に紐を結んで階級を示す。ケガレを怖れて下位カーストが触れたものは絶対にさわらない。だからブラフマンのチャイ屋は薄い素焼きのカップで出し、飲み終わると叩きつけて割ってしまう。
 アジアの街角には屋台があって点心が食べられる。麺、ヤキソバ、包子、郷土食、たっぷりの薬味と香草、使いまわしの箸、素朴な笑顔。どれも鍋一つの営業だから化学調味料で味付けするが、それはよしとしよう、庶民の食べ物にグルメぶるのは嫌味だ。
 韓国では海苔巻きキンパ、薄い煮干味のスープとタクワンが添えられる。チゲやナントカミョン、ナントカタンは唐辛子がきつくて寝起きの胃が苦情をいうかもしれない。
 イギリスのBBやパブに泊まれば朝食はベーコン・ソーセージ・卵、日によっては燻製ニシンとずっしりしているので昼は軽くていい。フィッシュアンドチップスやキドニーパイ、しかし近頃ずいぶん高価になったので、安上がりなピザの切り売りを公園で食べたりする。
 朝のFASTFOODには、疲れて眠り込む少女や新聞を読むサラリーマン、夜勤明けの現場帰り、それと学生が隣合わせに座っている。都会はどこでもありふれた情景だ。
FEARLESS 怖いものしらず
   ベナレスでガンジス河の岸を見物していた。観光船の客引きから逃れて流れに沿って行く、かなりの奔流に得体の知れない物が浮き沈みつつ流されている、水は極端に汚い。ふと娘が鼻をぴくつかせた。「どこかで秋刀魚焼いているよ、食べたいな」食事はすべてカレー臭でうんざりしているのは分かる、しかし食べられないものがあるのだ。さて説明した方がいいのかどうか。さっき「死を待つホテル」をのぞいてきたばかり、その次の段階が河岸のガートだ。灰は河に流す、それがヒンドゥの至福の最期なのだ。
 スコットランドには緑の貴婦人が現れる。影だけが階段を下りてくるのだそうだ。緑色のドレスでというのが多少つじつまが合わない。昼間だったせいか謁見してもらえなかったが人っ気のない広い中庭に日の光がふりそそいでいたのがもしかすると幻視だったのかもしれない。白い貴婦人は各国に現れる、チェコのチェスキークルムロフ城が有名だ。町も城もきれいに修復してあってお伽噺というよりアニメの舞台のようだがここでもお目見えできなかった。昼呑みしたので嫌われたか、チェコは名だたるビールの産地でバドワイザーもピルスナーも土地の名です。
 ドラキュラと狼男、首なし騎士の故郷にも行ったが会えなかった、当たり前だ。中国ではキョンシーに会いたかったが共産党がとっくに掃討した。聊斎志異という大怪奇短編集があるがこれも封建思想ゆえに焚書されたかもしれない。
 ウェールズの円墳に迷い込んだことがある。物語のように霧が深かった。建物が現れて入って行ったら農家の裏庭、激しく犬に吠えられた。ひるんで逃げようとしたら飛び出してきて回り込んで背後に走っていく、ひとしきり吠えて戻ってきて、もう大丈夫ですよという風に顔を見上げた。さて何に吠えたか、何を追い払ったか、きっとよくあることなのだろう。
 本当に怖いのはホテルのベッドだ。様々な人が寝て、寝言を言ったり悪夢にうなされたり、それを辛抱強く支えてきた。たまにはいたずらをしたくなるだろう。
FLIGHT

 飛行場の電光表示は変わる間がもどかしいものだ。とくにDELAYなどという文字が出ると目が離せなくなる。昔はボードが機械仕掛けでカチャカチャ回転した、小さな飛行場では係員がホワイトボードを書き換えたりした。変わらないのはアナウンスのアクセントでまるで聞き取れない。飛行機のナンバーだけが聞こえてしまうと一気に緊張する。集合、遅延、最悪なのはキャンセルだ、カウンターにとんでいく。長い遅延なら一律にコーヒー券か食事券、キャンセルになると厄介な選択になる。他社便に乗り換えて無理にでも帰ろうとするか、宿泊・送迎・飲食券をもらって明日まで待つか。
 LCCが片道切符を売るようになったので旅の自由が増した。複数の会社を組み合わせる、上海からバンコクに行ってケアンズから帰ってくるとか、沖縄から台北に回ればアメリカまで楽に行かれるとか工夫する。わざと乗り継ぎ時間を長くして空港のフリー市内観光ツアーに申し込む、飛行機に乗り続けるより疲れないし、プチ観光ができるし、ほど良い時間に到着できる、一石三鳥だ。昔はオープンジョー(経路が連続しない切符)はかなり割高になったのだ。飛行機代は時価だからサイト上で最安値を選べばいい。
海外の現地発着切符も平気で取れる。シンガポールまで飛んで対岸のジョホールバルに行けばホルネオはマレーシア国内便になる。カタールに行けば中近東は目と鼻の先だ。おまけにアラブの飛行機はテロの標的にならない。
 旧植民地と宗主国間はフライトが濃い。フランスもイギリスもトルコ(オスマンは世界帝国だった)も思いがけない所に飛行機を飛ばしている。
 どの飛行機も家族は優先搭乗させてくれるから真っ先に機内に入っていく、いい気分だ。CAさんもまだ疲れていないので笑顔が新鮮だし、同乗する客たちの素性を観察することも楽しい。 
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