OH MY GOD!
 神頼みといっても信仰が違えば神様も異なる、けれど深刻なときにはこの言葉は使わない。たとえば土産物屋で値段が折り合わない、言値と買値が極端に違う、OH MY GOD!攻防戦の始まりを宣言する言葉だ。食堂で注文と異なる物が出てきた、OKと言えばすぐに食べられる、作り直させる方がいいのか、OH MY GOD!。バスが満員で乗れない、OH MY GOD!叫ぶと幾分すきまができて乗ることができる。神様はありがたい。
 逆に喜怒哀楽の場面ではOh My Deer!と言う、口なれておくと便利だ。人混みでぶつかられるとOh My Deer!欲しい品物が見つからないので、お腹が空いてOh My Stomak!足が疲れてOh My leg!これはひとり言だ。とんでもないものを見かけて「クレイジー」と言うのもよし、Oh My Inteligens!と言うのもなおよしだ。
 早朝タクシーを飛ばして飛行場に行く。なにやら人が集まってゴチャゴチャしている。長い列がすこしずつ動いていくにつれて不安が増していく。ついに係員が叫ぶ。キャンセル、ディレイ、オーバーブッキングどれも旅行者には聞き捨てならない言葉だ。OH MY GOD!もちろん懐と日程に余裕があれば天使の声になる、次のフライトまでの食事やホテル、エンターティメントまで補償される。ケニア航空ではサファリができた。エミレーツは宮殿のようなホテルと最高のブュッフェを供与してくれた。アメリカン航空では前に並んでいた紳士が地位と業務を示して一日当たりの日当を請求し小切手をもらっていた。
 恩恵に浴せない立場は辛いOH MY GOD!。神様に微笑まれた者も言うOH MY GOD!
 どんな場面にも使えるのだが子どもが口癖にしてしまうといささかうるさい。神様の名を気安く呼ぶなって第一お前はどんな神様を想定しているのだ。しかし旅は波乱万丈だからどんな神様とも親しくしておいた方がいいことは確かだ。
OVER DRINK
 スペインの山奥でフィエスタに出くわした。マリア像を輿に載せて行進する、セニョールとセニョリータは騎馬で、村人は徒歩で荷車を引いていく、もちろん荷台は酒樽。ピッタリした皮のチョッキに白いタイツの美少年たち、色鮮やかなフラメンコドレスの美少女たち、もうすっかりできあがった百姓スタイルの村人たち、絵のような情景と振る舞い酒に酔った。ジュースとワインを混ぜて果物を浮かべたサングリアをコップでしたたか飲んだ。白茶けた道路に汗を垂らしながらバレードは延々と山上の聖地をめざす。酒樽も続いていきシャツもズボンもサングリア色になった。太陽が容赦なく照りつける。
 翌日はひどい二日酔い、女房はレンタカーの窓を全開にする。言い訳、祭りに祝い酒はつきものだよ…祝うだけでやめとけばいいのに、それが後の祭りなのだ。
「お父ちゃんは酔っ払ったのだからお詫びのしるしはアイスクリームだ」
 子どもが要求する。ごもっとも様でございます、仰せの通りにいたします。 
 アラブの飛行機に酔っ払いが乗り込んできた、インドネシア人の出稼ぎ帰りらしい。だんだん会話も笑い声も大きくなる。CAさんは北欧系だ、毅然と接客していたがついにキレた。鋭く注意、しかし男たちは浮かれ騒ぐ、操縦室をのぞいて指示を得ると一同を指差して厳しく叫んだ、ゲットオフ。さすがに男たちはあっけに取られてシュンとなるがもう遅い、サイは投げられた。スチュワードも手伝って持ち込み荷物を押しつけて機外に追い出す。定刻に離陸する。さて男たちは、次の便は明日だ、切符を買い直す余裕があるのか、切なくて同情した。CAは空の女神、逆らえば懲罰の天使になる、覚えておこう。
 雲南の苗族でドブロクをもらってペットボトルに入れておいたら発酵して爆発した、飛行場の待合室だ。荷物を預ける前でよかった。警備員は気がつかない。急いで残りを飲み干しさっさと手続きをすませた。ドブロクは強くて機内で前後不覚に眠り込んだ。   写真は雲南の町角の朝
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