カーニバル
トレス・ヴェドラスのカーニバル
丘の上に古い風車が回っている、水汲みのためだ。その先には風力発電の新しい風車が回っている。風が豊富で水と電気が乏しいのだろう。
ナポレオン軍のマセナ元帥が侵攻した時、ウェリントン将軍が迎え撃って退却させた。この国の要塞は必ず丘の上にある、見晴らしがよすぎて大砲時代の戦争には不向きだ。
ここのカーニバルは有料だ、塀を建てまわして道をふさぎ5ユーロの料金を取る。
レストランには極楽鳥グループがどやどや入っている、観光客は期待していないようで特別メニューもない。極楽鳥が親指を突き出して、ここはうまいぞという仕草をした。
毎年使いまわしている仮装が多いらしく、参加者も見物人も新規なもの例年のもの共に楽しんでいるようだ。
カーニバルは大安売りの季節でもあるらしく五割七割とかの札をさげた店が多い。
かたつむりのようなエヴォラ
町の歴史は巨石文化から始まる、コルク樫とオリーブの林の中にドルメンやメンヒルが散在する。町の中心にはローマ時代の神殿と浴場がある。水道橋は16世紀のものだそうだ。路地が迷路のようなのはムーア人の影響だという。教会はルネッサンス風、家はバロック風に造られている。サンフランシスコ教会という人骨教会もある。ふだんは沈鬱なポルトガル男と無表情無感動なポルトガル女たちが浮かれ騒ぐ姿を見るだけでカーニバルの値打ちがある。世界中の苦悩を背負ったような、もしかすると気分は未だに独裁体制下にあるような人たちが仮装パレードをしている。お婆さんは威勢がいい、といっても照れたような表情が少しだけ残っている。日本でも節季に仮装して厄落としをした民俗行事があるが、そんな気分を感じた。
すっぱり着ぐるみが何十人も行く。顔をベタにメークしてライオンになったお婆さん、髪を白黒メッシュに塗ってピンと立てたヤマアラシお婆さん、アヒルの着ぐるみ、極楽鳥の着ぐるみ、ミニスカートの楽団員、みんなお婆さんたちだ。お爺さんも負けていない、女装は当たり前、ピエロや海賊も当たり前。太った貴婦人集団が息をついて歩いているのも皆お爺さんだった。
トマールという田舎町の仮装は安価で稚拙だった。白いスーツに赤十字の白いキャップを髪につけたナース姿のご婦人たち。縞のTシャツに同じ柄の帽子を被った水夫のお婆さん、赤い服に赤い角をつけただけの悪魔の女の子、そんなものだけだ。見物の人たちもセーターやジャージにジーパン、雨上がりで寒そうだ。しかめっつらした中年の夫婦が隣のテーブルで水を飲んでいる。くちびると鼻がひっついた憎々しげな表情だ、踊りを見ていてつっと立ち上がったので帰るのかと思ったらホールで踊り始めた、あきれた、あれが楽しい顔だったのだ。
バンドは精力的にポピュラーを演奏している。バックで踊っているダンサーがフロアーに降りて同年輩の女の子と踊り始めた。みな地元の有志なのだ。入場料を払ったのがばかばかしくなった。
ナザレのカーニバル
右手に長い岬が突き出ている。蜂蜜色の砂浜が広がり、ずっと先に紺碧の海が見える。
カーニバルの扮装をした人たちが三々五々歩いていく。元は港町だった狭い路地が交差し、今はリゾートになって洒落たレストランが客を招いている。お婆さんたちの晴れ着はネッカチーフと、黒のミニスカートに長い靴下だ。ミニスートの下には十枚もペチコートを重ねている、色とりどりのレースの裾を見せてくれた。ただでさえずんぐりむっくりした老女が厚い重ね着から樽のように手足を出している。
2時からパレードが始まる。海岸通りのプロムナードにロープを張って港側から崖側へ行進する、小さなステージで謝辞を与えられるとグループは解散するのだが、ずいぶん自由勝手に動いていた。