エピファニィ 公現節(1月頃 移動祝祭日)
オーストリアの山奥、エーベンゼーは灯の行列だった。グロックラー・ラウヘンという、月遅れのルチア祭だ。白い服、大きな鈴、羊飼いだか兵士だかベル・ランナーという男たちが一列になって小走りで行進する。頭の上には切り絵で飾られた扇形の行灯、弘前ネブタを小さくした形、を載せている。絵が美しい、村の風景や人々の営みがローソクの灯で揺れる。ジャラジャラガンガンと鈴の音が響き、小声で祈りの言葉を歌っている。あとで絵師の若い女性に聞いたら300時間かかった、毎年新しい絵柄を考えるのが大変だ、下絵を描き、厚い紙を切り抜き、枠に貼り付ける。15キロもあり村の男たちは肩も腕も筋肉痛だという。
夜店の売り物はホットワインばかりだ、魔法瓶から紙コップに注ぐだけ。
熊は獲物でもあるが熊人かもしれない。狼は悪魔の使者であり狼人間かもしれない。樹々には精霊がおり異形の樹人もいた。現実的に森のダニに噛まれるとライム病になり何年もたって発症すると死亡率1割だという、これは怖い。
クリスマスから公現節(エピファニー)までの12日間を十二夜といい悪魔や魔女が跳梁する。新生児イエスが訪ねてきた東方の三賢者に祝福され救い主キリストと認定されるが異教の悪霊がイエスをなき者にしようとする。しかし失敗して闇に戻っていく。
山奥の村ゴリンに行った。村ごとに3年おきとか4年ごととかいう間隔があって、十二夜の初めか終わりか途中か、どの日にやるかもはっきりしないという。ともかく貼ってあったポスターによると今日の午後3時からやると明記してある。
森に入ると雪をかぶった小さなお堂があり小川が流れている。30人ばかりのナマハゲたち、子どもから老人まで男女のまじった一団が毛皮や樹皮の衣装にカウベルをつけている。大きな仮面は悪魔・魔女、SFものの鬼や龍、イノシシ、クマ、タカなどが森に入っていく。森へは別ルートもあるそうだ。
ホストはひときわ背が高く樹皮をつづり合わせた服で身を包み顔の部分がポカンと空洞になった仮面をつけ全身真っ黒な、たぶん死神だろう。ナマハゲたちが森に入ってしまった後も見物人の間をゆっくりと歩き回って一緒に写真を撮られたりヌッと顔を近づけたりして観光客にサービスしている。
やがてアルペンホルンがお堂の左右から不気味な音で吹き鳴らされると雪原から三博士が登ってくる。先頭は金色の星を掲げる王様の姿をした男の子だ。エジプト人、アラビア人、黒人の仮面をつけ三頭のアルパカに荷を背負わせ、自身も巻物や宝箱を持ってお堂の前に止まる。ゴリンの祭りではこの日のためにアルパカが飼育されていた、本当はラクダを出したいのだろう。
またアルペンホルンが吹き鳴らされると、森の斜面から雪を舞い散らしながら怪物たちが降りてくる。女の子や娘たちが扮する魔女の一団は林道を歩いてくる。見物の男の子たちは雪玉を投げつける、熊のナマハゲは小川で足を滑らせて冷たい水しぶきを上げた。
見物も少し飽きてきて森を出て雪原の焚き火に移動した。
チロル帽にチョッキ、脚絆に短靴の男たちがラッパ銃で花火を上げ、見事な馬にまたがった黒と白の乗馬服の男たちはムチを振って鋭く切り裂く音を出す。そうして焚き火を浄める、世界共通の方法だ。すぐに怪物たちが焚き火に侵入し暴れたり踊ったりする。焚き火に向って何か叫ぶのは冬の屈服と春の勝利を宣言しているのだろう。
「美しいクロイセ」は春の訪れ「醜いクロイセ」はキリストに服した魔女や悪魔たち「野生のクロイセ」はケモノの精たちで服することなく森に戻っていくのだという。
聖体行列